PID温度制御とローストビーフ


2017年9月に製作した低温調理器の第1号試作器をご紹介します

第2号機以降の「低温オーブン」空洞放射加熱方式(特許出願中)とは違います

左)外見 PID制御器の温度表示、加熱プレートが見えます。

右)プレートを裏返して内部構造を示したもの ヒーターとなる抵抗、温度ヒューズ、熱電対が固定されています。

その後、調理器庫内温度が素速く設定温度となる新方式で試作器を作成し、何度も調理をして原理検証を行った後に特許を出願しました。この新方式は「低温オーブン」です。

ここでは1号機の作成について説明します。

 理想的な温度調整ができるPID制御器が手に入りやすくなっています。

鍋は断熱し、精密温度制御ヒーターで理想的な低温調理を実現してみました。

  ローストビーフやチャーシューなど塊肉を適した温度で調理すると柔らかくジューシーで低温殺菌もでき、適切な温度と時間の加熱によりおいしく安全なことが知られています。

他にもアヒージョなどオイル煮、温泉卵、甘酒、チョコレートなど、適温でのレシピは多く知られています。

 一般的な低温調理器は鍋内の水を循環させて温度制御し、湯煎(water bath)します。

今回作成したPID制御低温調理器は水循環を使わず、断熱により鍋内の温度を均一にして温度制御し、底が平らな手持ちの鍋であれば鍋自体を設定温度にできる湯煎でも湯煎でなくても使える、適用範囲が広いものです。

温度は室温から100℃まで1℃刻みで正確に設定できます。

調理したものの写真はこちら

 

制作のための考察

1.断熱加熱 熱の伝わり方3種類 伝導・対流・放射について考えます。

  • 熱伝導 熱伝導率は、気体<液体<固体 の順に大きくなります。鍋底は加熱プレートにのせますので、鍋底が平らなものを用い、加熱プレートの材質は熱伝導性に優れた銅、またはアルミニウムを使うのが実用的です。熱伝導率グラフ1をご覧ください。鍋底以外の鍋周囲は空気(気体)ですので、熱伝導による熱損失は少ないです。
  • 対流 対流は重力場でおこります。暖かい空気は軽く上昇し、そこへ周囲の低温の空気が流れ込む循環で、熱の逃げる方向は上です。加熱ヒーターの上に加熱プレート、その上に鍋、鍋蓋は断熱材で覆います。
  • 熱放射 熱放射は全方向へ、表面の温度と放射率に応じた赤外線として放射されます。鍋の周囲を放射率の低い(赤外線の放射・吸収がともに少ない)もので断熱します。金属光沢のある鏡面の放射率は一般的に小さいです。

 2.温度制御

 オーバーシュート(目標温度を行き過ぎてしまう)を起こさず、早く安定して正確な温度に制御します。PID制御では、目標値からのずれの比例分(P:比例)、ずれの累積分(I:積分)、変化分(D:微分)に応じてオートチューニングしてそれぞれ重みづけ、加熱の立ち上がりが素速く、目標温度に制御します。

 

 3.ヒーターとその駆動

 加熱プレート裏側にヒーターとなる抵抗、温度計測する熱電対、安全のための109℃の温度ヒューズをつけます。ヒューズが109℃になると断線してヒーターに電流が流れなくなります。

 熱電対は温度調整器の入力へつなぎ、温度調整器からの信号によりソリッドステートリレー(SSR)がヒーターーをオン・オフします。ソリッドステートリレーは可動部の無い半導体スイッチで、故障原因になりやすい接点が無いため、オン・オフが多い用途に最適です。さらに、動作音は無音です。

 ヒーターとして、加熱プレートへ直接熱伝導するメタル・クラッド抵抗100Wを2つ並列につなぎました。メタル・クラッド抵抗は、巻き線抵抗の一種で、絶縁してから金属で覆ってあり、放熱板に取り付けて大電力用に使用しますので、加熱プレートを熱するのに適します。加熱用として200Wは小さめですが、100℃以下での使用には十分で、200Wより小さくすると加熱立ち上がりが悪くなりますので、ちょうど良いです。熱電対は一般的なKタイプを使用しました。

 

調理するときは、写真のように鍋と蓋を断熱シートで覆い、発泡スチロールの保温箱をかぶせて使用しています。これにより、表示温度と鍋内の温度が1℃以内で一致しました。


グラフ1 主な物質の熱伝導率

加熱プレートには熱伝導率の大きな銅、またはアルミニウムを使うのが実用的です。

空気の熱伝導率は十分小さいです。

 理科年表より作図